しゃべれども しゃべれども

『しゃべれども しゃべれども』

私はそんなに読書好きではない。そもそもスポーツにダンスと、体を動かす方が好きだ。エンターテイメントとしても、本よりも、ビジュアル化された映画、テレビ、雑誌の方が好むからかもしれない。だからこそ、私にとって読書とは、“隙間エンタメ”である。私はお家に帰ったらテレビを観ちゃうから、本は電車に乗っている時などの移動の隙間時間に楽しむものなのだ。でも、私の通勤の電車乗車時間はたったの6分、しかも音楽なら歩きながら聴けるけど、本はなかなか歩きながらは難しい。だから、たまに10分以上電車に乗る時で、疲れ過ぎてない時に、本を鞄の中から取り出す。そんな私にとって僅かな読書時間、1冊を読み切るのになんとも時間がかかる。いつも読み終わる頃になると、ブックカバーがボロボロになっている。それでも私は面白い本に出会うとワクワクしながら、僅かの隙間時間を読書に費やす。 
しゃべれども しゃべれども」(佐藤多佳子著)を最近ようやく読み上げた。この本は1月から私の毎日バッグに入っていて、ブックカバーを外しても読み込んだ感がある。421ページもあるから、それこそ時間がかかったのだ。特に最初3分の1は、本当にじっくり隙間時間ができた時のみ読んでいたため、なかなか進まなかった。しかし次第に話が面白くなって、残り3分の2は3月から急ピッチで読んだ。といっても、あくまで“隙間エンタメ”なので、2〜3日に一章レベルだが・・・。昨年映画化された長編小説であり、主人公の今昔亭三つ葉役を国分太一が演じている。私は、どうもこの役と普段テレビを観ているTOKIO国分太一のキャラクターが重ならなく、とはいえ非常に評価されたという彼の演技見たさに、記憶の新しい内に映画を観ようとDVDを借りてきた。原作と映画の両方をチェックしたのは「クワイエットルームへようこそ」以来かな。(結局本を後追いで読んだんだけどね。)でもあれは原作者である松尾スズキが監督しているから、両方の統一感がきちんと取れている感じ。でも、この421ページもある長編小説が、どう2時間の映画にて表現されるのかも、純粋に興味があった。 
まず、この小説の素晴らしいところ、それはちょっと笑える文章表現、それぞれの登場人物の描写の細かさ、そして心温まるヒューマン・ドラマなところだ。映画では、ストーリーをまず2時間で成立しながら、それぞれのキャラクターを描くために、ストーリーのコアな部分に必要の無い登場人物は全てカットされている。例えば、三つ葉の従弟の良、村林の母親、白馬師匠、湯河原の奥さん・・・皆本ではかなり個性的なキャラクターとして描かれているが、彼らを描写していたら4時間映画でも収まらないかもしれない。また、シーンについても、本では2〜3つのシーンで描かれている台詞や設定を、映画では無理矢理1つのシーンにまとめている。なるほど・・・こんな手を使ったかぁー。心配していた国分太一が演じる三つ葉も、予想以上に良かった。湯河原と郁子さんは、私の本で読む想像とはかなり異なっていて、違和感を感じたけど・・・。 
しかし、さすがに小説から入って映画を観ると、かなり物足りなく感じた。一番の問題は、三つ葉の心の葛藤が映画で表現しきれていなかったこと。そもそも本では、三つ葉が語り手となっているため、各シーンでのやりとりの中に彼の心の声がかならず表現されていた。話すことにコンプレックスを持つ人たちと接しながら、どちらかというと勝気な三つ葉自身が、壁にぶち当たって、どんどん迷走してく様子、映画を観ただけでは伝わらないだろう。映画では、小三文師匠の十八番が「茶の湯」ではなく「火焔太鼓」だったり、三つ葉の部屋には「あしたのジョー」でなく「スラムダンク」があったり、「迷子の子猫ちゃん」ではなく「猫ふんじゃった」だったりと、最後のシーン設定も異なるし、それなりに映画の演出の拘りは感じられたけどね・・・。もはや、私は映画単体で観てどう感じるか、全く分からないし、評価もできない。でも、少なくとも本を読んで、私が魅力的だと思った部分の5分の1ぐらいしか映画では表現できていないと感じた。(※繰り返すが、国分太一の演技は非常に良かったし、十河五月役の香里奈も、思ったより黒猫らしくはまり役だったけどね。)とにかく人間味溢れるストーリーなので、本を読むことを私はお勧めする。・・・でも、映画だけ観た人がどう感じるのかも知りたいので、そんな人がいれば是非感想を語っていただきたいと思う。 

・・・さて、「しゃべれども しゃべれども」が終わり、次の私の隙間時間を埋める本は、やはりドラマを観ていた鹿男あをによし。最近奈良通になっている母親が、原作が面白かったと本を送ってくれた。やっぱりドラマとはかなり異なるらしいけど・・・。ちょっぴり問題なのは、昨年出版の文庫本じゃないから、バッグの中が嵩張るコト・・・早く読まなくっちゃ。 

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

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